shabon songs

前作『Merry Andrew』の成功を味わう間もなく、約1年にわたって断続的に行なわれたレコーディングの末に完成したサード・アルバム。音楽家としての自分を試したかったという本作は膨らむアイディアの泡が弾けてしまう前に音源化したカラフルな一枚だ。曲ごとにカーネーションの矢部浩志や大田譲、東京スカパラダイスオーケストラの加藤隆志、LITTLE CREATURESの鈴木正人、ベースの沖山優司、ドラマーの沼澤尚や佐野康夫ら、名うてのプレイヤーを起用。はっぴいえんどやティン・パン・アレーのメンバーが大きな役割を担った70年代のニューミュージックや80年代の歌謡曲からの影響、その最良の部分をしなやかに発展させている。 本作収録の「TEXAS」と「The Still Steel Down」という2曲のシングル曲を聴くと、まずはポップスとしての完成度の高さに驚かされるが、そのソングライティングは、Aメロ、Bメロ、サビというような、典型的な曲のフォーマットをはみ出しており、ぎりぎりのところで楽曲が成立していることがよく分かる。こうした傾向はアルバム全編に及んでいて、ニューオーリンズが香るセカンド・ラインのリズムとラテン・ピアノ、そして中華風ラップが異国的な化学変化を起こす「雨唄」やAORレゲエ「よいこのクルマ」、エレクトリカルな瞬きをちりばめたメロウな「SUCRE HACACHA」ほか、いずれの曲も展開の自由度とハイブリッドな作風がいよいよ彼女の個性として確立された感がある。歌詞の面においては、生活を犠牲にして制作に没頭していただけに、出会いと別れのシチュエーションを行き来しながら、永続的なコミュニケーション願望をぐつぐつと煮詰めていくが、同時に、彼女が音楽表現に向かう動機も炙り出されてゆく。エンディングの「唄い前夜」とは、そうした確認作業を経た彼女の偽らざる心境なのだろう。そう、ここに誕生したのは一人のプロフェッショナルな音楽家だ。（CDジャーナル）