Written In The Stars

ピアニシモからフォルテシモまで、ダイナミック・レンジが広い。どんなに速いパッセージでも音の粒は揃っている。共演のベースとドラムスが、リーダーの動きをテレパシーで察知し、ぐんぐん加速する。随所に施された複雑な仕掛けを簡単にくぐりぬけ、ジェットコースターのようなスリルと興奮を味わいながら、コール・ポーターの(1)が進行していく。ジョニー・マーサーの(2)はミディアム・テンポのゆったりとした展開。ハロルド・アーレンの(3)では、いまにもこぼれ落ちそうなリリシズムを披露し、ヴァースから入るアーヴィング・バーリンの(4)はイン・テンポになってからベースとのユニゾンでメロディを合奏、後半で転調するという大胆さ。(5)は他のピアニストはまず取り上げない知られざる佳曲。ロジャース=ハートの名コンビによる(6)でも、華やかな演奏を聴かせる。(7)でもトリッキーな場面があるが、このトリオの安定感は揺るがない。思わずニヤリとする場面の連続である。誰も知らない(9)は、ビルが7歳の時に他界した父親ムース・チャーラップとそのパートナーだったエディ・ローレンスの共作。この曲のみ、思い入れたっぷりにソロで奏でる。ガーシュウィン(10)は、ミディアム・テンポの小粋な演奏でベース・ソロもフィーチャー、ハロルド・アーレンとレオ・ロビンの共作による(11)は、幻想的なバラードに仕上げている。<br> どの演奏もピアノがキラキラと光っている。"スタンダード"に該博な知識と抜群の構成力・解釈力を持つビルは、夜、星、夢、空を題材としたこの11曲を、ブロードウェイの作曲家だった亡き父親との思い出に捧げた。在りし時代、音楽は人々に限りない夢と希望を与えてきた。本作で彼は埋もれつつあるその頃の名曲に光をあて、新たな解釈を試みている。満天の夜空にきらめく星たちのように、聴く者に生きる活力や深い余韻を与えることのできる"本物のピアノ・トリオ"をここに聴くことができる。（CDジャーナル）