night

2003年を代表する超名曲「Off you go」から始まる6枚目のフル・アルバムは、高野勲、小倉博和(山弦)、デヴィッド・キャンベル(BECKのお父さんですね)といったアレンジャー・ミュージシャンが多数参加することによって、彼女のシンガー・ソングライターとしての幅を大きく広げた意欲作となった。ちょっとシェリル・クロウを彷彿とさせるオルタナ・フォーク・ナンバー「Blink of stars」、高野氏の手による"生楽器による人力のドラムンベース"とでもいうべきサウンド・メイキングがまったく新しいタイプの快楽をもたらす「still have us」、ブルーズ感たっぷりのヴォーカリゼーションとあまりにも美しいストリングスが融合した「慰めのうた」。これらの曲から映し出される音像は、これまでの彼女の作品には見られないものであると同時に、"木訥、純朴なシンガー"というイメージを大きく変えることに成功している。もしかしたら"え? これが小谷美紗子?"と思う人もいるかもしれない。<br>しかし、いくらサウンドのバラエティが増えたとはいっても、この作品は決して散漫にはなっていない。それは、やはり、彼女の言葉とメロディがもともと持っている、根元的で普遍的な魅力のせい。日本のフォーク・ミュージックからジャズ、クラシック、現代音楽の素養までが封じ込められた旋律、そして、日常の風景を品のいい言葉で綴ったリリック。そこから立ち上がってくる彼女の歌は、時代性とか流行とか年代を超え、聴く者すべてを確実に魅了していく。新しいモードをまとい"これが最新型ですよ"と提示することで音楽が成立した時代は、とっくに終わっている。メロディと言葉と声。この必要最小限の要素で何ができるか? というのがこれからのミュージシャンに問われていることであり、小谷美紗子は本当の音楽を作る資格を持った、数少ないミュージシャンのひとりであることは間違いない。（CDジャーナル）