Great Handel

イアン・ボストリッジ

16曲

アルバム

AAC 128/320kbps | 174.1 MB | 1:06:40

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￥1,571

アルバム解説

もしも「月に憑かれたピエロ」の男声版なんて代物があったら、世界で一番巧く歌えるのはボストリッジだ。精神分析学と表現主義思潮が同時代の産物だったことを、ふと連想させるような芸風。シューベルト、シューマン、ヴォルフ、さらにはブリテンに刻んだ一連の名唱を支えるのも、心理劇的視座から読み込んで細分化したテキストに、陰影礼賛よろしく濃やかなニュアンスを与えるスタイル。"学生時代から親しんでいた"というヘンデルでも、方法論は基本的に変わらない。<br> たとえば『メサイア』の「慰めよ」。神による救済という概念を超然と提示するのが普通の行き方だとすれば、ここではまるで"慰めを必要とする魂の状態に関する知的考察"が前面に出てくる。それはそれで一興。単語ひとつひとつどころか、シラブルの構造にまで分け入るような表情づけは毎度ながらのイアン流だ。それは音楽の中身が苦渋や内省味を帯びたものになればなるほど、持ち前のメランコリック&メロウな声質と手を取り合って説得力を放つ(『復活』『サムソン』『イェフタ』)。<br> "ヘンデル自身がソプラノのパートをテノールに歌わせていた史実"も踏まえ、カストラートのために書かれた曲を『アリオダンテ』と『セルセ』から選んだボストリッジ。とくに愛着があるという「不実な女」は、しかし不思議と性格的表現が控えめで、「暗い不吉な夜」は急速な装飾楽句のこなし方が少し鈍重。「オンブラ・マイ・フ」もカウンター・テノールの声域で耳にできる類の非現実的官能美は求めるべくもなく、ヴィブラートの用法も画一的だが、醒めた理性が描き出す理想郷の姿にも似た緑の木陰は、疲れた現代人が己の心象風景を託すに足るものだ。ヘンデル屈指の名旋律「お前が歩くところ」も然り。<br> 2曲に登場するロイヤルの抱擁力豊かな声質と円満な音楽性はデュエットの相手として適材適所。ビケット指揮の楽団は合奏の立体感に富み、とくに管楽器の巧さが光る。（CDジャーナル）