FAMILY

これといって大きな不満があるわけじゃない。むしろ万事快調とは言えないまでも概ねOKなはず。それなのに雑踏の中で感じる、わけもない苛立ち。寝入りばなのわけのわからない悪夢。スガシカオの歌を聴いているとそんな気分が頭の中でじんわりと甦ってくる。ファンキーだけど、どこかねじれてる、そんな歌。<br>デビュー・シングル「ヒットチャートをかけぬけろ」を聴いた時は「何かヘン……」としか思わなかった私だが、そんな予想に反して程なく大ブレイク。これはヒット・シングル「愛について」を含んだセカンド・アルバムである。「愛について」のビートがスライ&ザ・ファミリー・ストーンばりのズンドコ・ビートであることからも明白なように、この人の身軽なファンキー感覚は最近のシンガー・ソングライターでは山崎まさよしとタメを張る。キンキラキンの"ファンキー"じゃなくて、ちょっと裏通りに迷い込んじゃった風なショボめの"ファンキー"なのだが、一筋縄ではいかない歌詞も含めて、得難いキャラクターだ。たとえば④では「"あと少しがんばってみるよ"どうにもなんないと思うけど」なんて、字面にするとかなりネガティヴな歌詞を明るくマイルドなフォーク・ロックに乗せてサラリと歌っている。ちょっと見は愛を求める少年のような眼差しを感じさせる「愛について」でさえ、「明日もきっとまだ寒いから」なんて言ってるし。「リンゴ・ジュース」「バクダン・ジュース」の"ジュース"2部作に共通して流れるなんとも不穏な空気も今時、貴重な感覚だ。「今や青春さえも(広告)代理店が仕切る時代」なんて何年前に誰が言ったんだ?今はさしずめ「そんなこと今さら言うなよな、別にどうでもいいじゃん」ってな時代か。とりたてて面白くもないけど、その場は紛れている。スガシカオの歌を聴いた後、耳に残るザラザラした苦い後味はそんな時代の気分に妙にシンクロしている。（CDジャーナル）