Anywhere I Lay My Head

眠れぬ森の美女。ただし、このデンマーク系の王女は、目覚めたばかりなのか、目がいささか腫れぼったい。また、この森はかなり深く、日差しはほとんど差し込まない。よって湿度が高く、陰気なムードに覆われている。これは、誰もが楽しめるハリウッド映画やテーマ・パークのようなアルバムではない。言うなれば、独自のコレクションで特定の観客を引き寄せる博物館のようなアルバムだ。このスカーレット・ヨハンソンの歌手としてのデビュー作は、トム・ウェイツのカヴァー集である(オリジナル曲の(6)とボーナス・トラック(12)を除く)。音楽的なカテゴリーは、"女優"かつ"オルタナティヴ・ロック"。まず"女優"のアルバムだけに、"演出"の比重が大きく、映画や舞台と同じようにスタッフ・ワークとして評価されるべきアルバムである。歌の背景は、白日夢を表現したような趣で、かなり作り物っぽい。つまりシネマチックな虚構性の強いサウンドで、トム・ウェイツの歌世界を再構築しているというわけだ。また、選曲について触れておくと、トム・ウェイツの曲のなかでは比較的知られていない曲が多く、これまで誰にもカヴァーされていない曲も選ばれている。これらのことが物語っているように、これは企画の段階からアイディアをよく練り上げて制作されたプロジェクトであり、脚本家や演出家の存在感は大きい。その脚本家や演出家にあたるプロデューサーは、ティーヴィー・オン・ザ・レディオのデヴィッド・シーテック。その関係で、彼が過去にプロデュースを手がけたヤー・ヤー・ヤーズやセレブレーションのメンバーが演奏で協力。また、デヴィッド・ボウイが2曲にバッキング・ヴォーカルで参加している。スカーレットは、おおむね低めの地声を生かした歌い方をしており、ややぶっきらぼうな感じ。映画『ロスト・イン・トランスレーション』でのふくれっ面が目に浮かぶ。そのさまはいかにも彼女らしく、これまでスクリーンから受けたイメージ通りだ。この点も含めて、本作は、シネマチックな"女優"のアルバムである。（CDジャーナル）