American Life

テーマは戦争、だなんて言ったらマドンナは喜びながら泣くだろう。自分がアメリカ合衆国の人間であることを嘆き恥じる人であってほしいという願いを、今、多くの日本人が自分の好きなアメリカ人に対して抱いている。戦地へおもむいて人を実際に殺すのは戦争を仕掛けたやつらではない。政治と国家の仕来たりを今さら嘆くのも悲しいだけだと、このアルバムを聴いていると思ったりする。アメリカ合衆国に生まれ育ったことによって受けた恩恵を否定することなどできないが、自分がアメリカ合衆国のすべてを肯定することなど絶対にできないというのが標準的リベラルだろうか。それも甘い、とマドンナは言いたいようだ。アメリカ人であるということはアメリカ合衆国に対する憎悪と愛の相克の中で生きるのが当然のはずなのに、メディアは誰のためにある、と今さら問うのも疲れるね。とマドンナはそんな憎しみと愛の対象であるアメリカ人やそのお追従たちを癒したりはしない。こそぎ落した装飾、アナログ・シンセとアコースティック・ギターと歌で裸体感は強いのに色気のない音を突きつけてきた。シンプルだが高音圧。弱音楽器がオン・マイクでやたらに近くにいたりする。広がりもあるのに音の粒は曲ごとにバラバラ。能のないやつならロー・ファイなんてまぬけなことも言ってしまうかも。シカゴの変なやつらに学んだのかもと思えるところなきにしもあらずだが、メロディはマイナー系で「ホテル・カリフォルニア」のもじりとか、ヴェトナム敗戦直後のころにありがちだった(70年代中期風)感傷をあえてなぞっている。やっぱり戦争じゃないの。そうではなく、アメリカは戦っているのではなく、侵略しに行っているのではないの世界各地に、との問いかけを日本人に感じさせさえする攻撃的姿勢がここにはある。という点で本作はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動』に通じている。この悲しみは『ミュージック』と表裏一体。（CDジャーナル）